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(BGMとしてお耳に達していますのはこの曲の「ベネディクトゥス」のMIDI音です)

Thomas Tallis 「 Mass for four vices 」
   ( 1505 〜 1585年)

                            - (Kyrie)

                            - Gloria

                            - Credo

                            - Sanctus

                            - Benedictus

                            - Agnus Dei I, II, III

 

Thomas Tallis

     トーマス・タリスは1505年に生まれたと言われて

  居りますが、一説には出生年不詳とも言われます。

  1505年生まれが正しければ、昨年2005年が実に

  生誕500年に当たっていた訳です。彼の経歴が

   明確になり始めるのは、1532年にドーヴァーの

   ベネディクト派修道院のオルガン奏者に就任した

時からで、その後1537-8年にロンドンの St. Mary-at-Hill 寺院のオルガニスト

になっています。1541-2年にはカンタベリー大聖堂の世俗職員に、また1543年

には王室礼拝堂の侍従に就任しています。 彼は死ぬまでオルガン奏者として

王室に仕えました。

 1575年エリザベス1世はウィリアム・バードとトーマス・タリスに楽譜を印刷し

出版するライセンスを授与しました。その結果、二人の作曲家は夫々ラテン語

のモテット曲集をその年に出版しました。 

 現存するタリスの最初期の作品としては恐らく、1530年代迄に共通な伝統的

な構成を持つ 3曲の「随意応答頌歌」( Salve intemerata vigro, Ave rosa sine

spinis 及びAve Dei patris filia)  でありましょう。 他の初期の作品には

「マニフィカート」と、もう1曲の「随意応答頌歌」( Sancte Deus )が含まれますが、

これ等は何れも男声用です。

彼の最も豪華な2作品は、マリー・チューダー王朝の短い統治期(1553-8年)に

書いた「6声の応答頌歌」( Gaude gloriosa Dei mater ) と 「7声のミサ」

( Puer natus est nobis ) でした。

 今回私達の歌う「4声のミサ」も、丁度上記と同じ頃に書かれたものです。

私達の使っている楽譜(JOED Music社版) の序文(原文は英文)を邦訳

しましたので、以下にこの曲の解説としてご紹介します:

 


『 タリスが生きた時代は、英国では祈祷文の変更を廃止するなど宗教上の

変革のプレッシャーの強かった時代でした。 この事は、彼の書いた曲の

スタイルの広範な多様性にも反映しています。 単音節スタイルである事、

またラテン語で書かれている事から考えると、「四声のミサ」は、祈祷文に

ラテン語を使用する事が禁じられる以前の、ヘンリー8世統治時代の末期に

書かれたものの様です。 また一方でこの時代は、言葉がよりはっきりと

解り易いようなシンプルな曲作りへの要請があり、この事は1544年に

クランマー大主教が国王に宛てた書簡にも明記されています。 

この手紙で大主教は「音楽は、沢山の音符に充たされるのではなく、

出来る限り音節毎に一個の音符を付けるべきで、そうする事により、

明瞭に、且つ真心込めて歌われるようになる筈です」と主張しています。

  この楽しい小ミサ曲の唯一の原典はGyffard パート譜集で、恐らく

15538年の頃の ものであり、筆者は大英図書館のご好意によりこの

原典に接する事が出来ました。

Tudor Church Music社の編集者が述べたように、この原典版には

パート譜の書き方で数箇所、目に付く特異性が示されています。 

その点に就いては、現在知られているタリスの他の作品にも類似点が、

沢山ではないまでも少し発見されています。 

従ってこの作品の編集者は誰であれ、これ等の特異性が何処まで

作曲家の意図を表わしたものなのか、そして何処までが誤写の結果なの

かを考察せねばなりません。

 写譜の上で重大な誤りを幾つか犯したのは、類似の欠落が多くの楽節

で起きている事(Sanctus30小節の如く)、ある音符の長さが倍になって

いる事(Gloria4小節の如く)、 ある楽節全体が間違ったピッチで書かれて

いる事(Credo134−5小節の如く)などから も明らかで、適切な修正が

なされない限り、書かれたままのスコアーではハーモニー感もポリフォニー

感も得られません。 他のケースでは、原典版の拙劣なパート譜書きの結果、

納得の行く解決が不可能なほど酷くて、タリスのいつもの巧みで興味深い

不協和音処理の 特色からは外れている様に思える不協和音が現れています。 

その一つの例はGloria66小節にあります。 非常に似通った楽節が

Credo68小節にもありますが、筆者は いずれのケースでも、これ等の困難を

修正する為に二個の音符を変更するのが正しい方法だったと感じています。 

脚注に記るされていますが、数多くの同様な訂正が、特にCredoの終曲部分で、

なされています。

(中略) 

 この時代の英国で作曲された他のミサ曲と同様、このミサ曲にも多声の

キリエがなく、 キリエは単旋律聖歌の方向で歌われた様で、この場合は

Sarum Rite(訳注:「ソールス ベリー典礼」の事)から写されたものの様です。 

英国でのこの慣行の理由の一つは、キリエは殆んど一種のミサそのものと

して扱われていたからであり、何らかの特別な機会に用いられる詠唱は、

キリスト教暦年の季節と、挙行される祝祭の重要度により選ばれていたもの

の様であります。 その詠唱は適度な長さで、通常儀式文のテキストに限定

するものであったかも知れません。 或いはもっと念の入ったもので、通常

儀式文のテキストに挿入された他の言葉を含むものであったかも知れません。 

斯かる「進句付きの」詠唱では、挿入されたテキストが基本的な典礼文を

伝えるか、又は敷衍しています。 最終的には幾つかの念の入った詠唱は

進句付きの詠唱に似ていますが、挿入されたテキストのない、長い単旋律

聖歌を含んでいる事があるかも知れません。』


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